風が語った昔話

むかしむかし、雪が降って大地につもった。
春になると雪はまわりの雪がとけるのを見て、自分の身も危ないことに気づいた。
雪はとけて水になって地面にしみ込んだら、地中で違う生きものになろうと思った。
地中にはミミズがたくさんいた。そして雪は地中のミミズになった。
土の中は気持ちがよかった。でもミミズは地上の世界を知りたくなった。
ミミズはたねになって芽を出したいと思った。
それならばと、ミミズは種になった
種は芽を出した。芽は地上葉を開き、
どんどん枝をのばし育っていった。大きくなって木になった。
木は自分の枝ぶりを湖に映し、うっとりとしていた。
するとそこへ魚がやってきた。
木は魚のように泳ぐこともできない自分は危ないと思った。そこで木は魚になった。
魚は湖から川へと泳いだ。川を下っていると、そこへウサギがやってきた。
魚は毛のあるウサギを見て、自分も毛のあるものになりたいと思った。
魚はウサギになった。ウサギは森を駆けまわった。
ふと見上げると、空飛ぶ座布団ざぶとんのようなものが見えた。ムササビだった。
ウサギは木から木へと飛び移るムササビのほうが強そうに思えた。
ウサギはムササビになった。
ムササビは山の中ではもう少し体が大きくないと 危ないと思った。
ムササビはタヌキになった。
でもタヌキはあしが短かかったので、
キツネのように長い道のりを かろやかに走ることができなかった。
タヌキはキツネになりたいと思った。
タヌキはキツネになった。
キツネはある日、自分よりもずっと大きなクマに出合った。
キツネはクマにねらわれそうになった。キツネは小さいのは危ないと気がついた。
キツネはクマになった。
しかしそこにオオカミが現れた。クマはオオカミに襲われ危ないと思い、
クマはオオカミになった。
オオカミは自分は山で一番強いと思い 丘の上で遠吠とおぼえをしていた。
するとそこへ矢が飛んで来た。矢の飛んできたほうを見ると人間が見えた。
オオカミは人間になりたいと思った。
オオカミは毛皮を脱ぎすてて人間になった。
人間は草をんで服をつくった。
人間の男はヤリでケモノを殺し、女は火をおこしてその肉を料理した。
弓で鳥もった。
子どももんだ。
木を切って舟をつくり 海へとぎだした。
海ではモリをつかい クジラをしとめた。
クジラの肉は たいそう美味しかった。
お腹がいっぱいになると眠たくなった。
ふと人間は足元で昼寝する猫に気づいた。
人間は猫になりたいと思った。人間は猫になった。
猫が昼寝をしているとちようが飛んできた。猫は蝶がとても不思議だった。
どうしても蝶をつかまえたいと追いかけた。追いかけまわしすぎて、
猫はついに蝶になってしまった。
蝶は空を飛んで海を渡った。
すると渡り鳥と出合った。
蝶は渡り鳥になってもっと遠くへ飛んでいきたいと思った。蝶は鳥になった。
鳥はさらに空高く飛びたいと思っていると、
彗星がそばを通りすぎた。鳥は彗星になった。
彗星は他の彗星と衝突しようとつをくり返し どんどん大きな惑星となっていった。
惑星はついに太陽となった。
太陽はいつも燃えて明るかったので 夜のやみにあこがれた。
それで太陽は夕暮れとともに 夜になってしまった。
夜はまっくらな闇をたたえて 気持ちがよかった。
ある日、夜のからだに星がまたたいた。そして月も昇った。月は満月となっていった。
満月になると夜は真っ暗ではなくなった。
ふと下を眺めると月明かりで照らされた山があった。
山は今年始めて降った雪で一面おおわれていた。
雪が月明かりできらきらと光った。
そのとき夜は
自分が かつて白い雪だったことを ようやく思い出したのだった。